CSR・SDGs取組み事例

社会に新たな循環を生み出す紙づくり「めぐる、手漉紙。」

公開日:2023.06.27

更新日:2024.03.27

「デザイン」でお客様のこだわりを表現し「印刷」という形で課題解決に近づける。そんな目の前の課題を“どう解決していくか”常に考えてきたコトブキ印刷が、印刷業界では型破りな「オリジナルの紙づくり」に踏み切った。「廃材再利用による資源の循環」から「障がいのある方への自立支援」まで多様な社会課題に挑戦する想いとは。はじまりの物語をプロジェクト発起人である宗藤兄弟に聞いた。

話し手:

有限会社コトブキ印刷 常務取締役 宗藤利英さん(写真右)

有限会社コトブキ印刷 専務取締役 宗藤正典さん(写真左)

企業紹介

有限会社 コトブキ印刷

有限会社 コトブキ印刷

広島県府中市に会社を置くコトブキ印刷。「お客様の喜びを創造する」というコンセプトを大切に、印刷だけではなく幅広いデザイン制作を手掛ける。ハードからソフトまで、課題解決のための多様な手段を提案することが強み。印刷体験ができるワークショップ「Ce-no(セーノ)」もおこなう一方で、社会課題に目を向けたオリジナルの紙作り「めぐる、手漉紙。」プロジェクトも加速させている。

デザインを通じてお客様の喜びを創造するのがコンセプト

——まずはコトブキ印刷の事業内容を教えていただけますか?

宗藤利英(以下、利英):デザインと印刷を軸に事業を行っています。デザインを通じてお客様の課題解決のサポートをすることをコンセプトにしており、印刷はその解決策の1つという位置付けですね。そのため、印刷だけではなく、看板やノベルティ、映像、WEBサイトの制作やディレクションなども行っています。印刷においても紙だけにこだわらず、木や布などに印刷することもありますし、オフセット印刷、活版印刷、シルクスクリーン印刷、そしてオンデマンド印刷など、多岐にわたる印刷での表現方法を駆使し、お客さまのこだわりを形にし、課題解決につなげ、喜んでいただくことを大切にしています。

——スクリーン印刷はワークショップでも体験できるんですよね?

利英:手軽に印刷体験ができるよう、ワークショップという形ではじめたのが、スクリーン印刷プロジェクト「Ce-no(セーノ)」です。こちらは自分が描いたイラストを製版し、Tシャツやトートバッグなどに印刷する体験ができるというもの。当社のことや、どんな仕事をしているかを「知ってもらう」ことを目的にしながらも、僕たち自身が「楽しむ」ことができるスタイルにしようと、約5年前からはじめました。
 ちなみにプロジェクト名は、参加者の皆さんが印刷する時に自然に発する「せーの!」というかけ声から名付けました。普段見ている商品がどのように印刷されているのかを知って驚いたり、楽しそうに体験したりする姿を見るとこちらも嬉しくなりますね。

事業について楽しそうに語る宗藤利英(常務取締役)

オリジナルの紙を作ってみたいという気持ちがスタート地点

——このたびスタートした「めぐる、手漉紙。」は、どんなプロジェクトなんでしょう。

利英:地域や地元企業から出た廃材を使って、障がいのある方の手でオリジナルの紙を作るというプロジェクトです。当社がある府中市はデニムの産地ということもあり、第一弾は不要となった糸や綿などの廃材をデニムメーカーから提供していただき「名刺」として提供することからスタートしました。
 なぜ名刺かと言うと、もともと会社にある「ヤレ(製品として使用できなくなった紙)」で自分たちの名刺を作っていたところ、名刺交換の時に紙について話す機会が増えたんですね。そこで今回のような取り組みなら、紙が生まれた背景など一層話題を生むことができると考えるように。また、仕事などの物事がはじまる時には「名刺交換」がつきものです。プロジェクト名の「めぐる、手漉紙。」は、こうして生まれた手漉紙を多く方に使っていただき、全国を「めぐらせたい」という想いから生まれました。最初は「名刺交換」という小さな循環ですが、人から人へ、手から手へと、全国をぐるぐるぐるぐるめぐることで、社会に新たな循環を生み出したいと考えています。紙を使ってくださる方が喜び、手漉きをしてくださる障がいのある方が喜び、廃材をアップサイクルしてくださる企業が喜び、こどもたちが暮らす地球が喜ぶ。そんな未来につながる、喜びの循環を願い、まずは名刺からスタートすることにしました。

様々な素材から生まれた手漉紙

——プロジェクトが生まれたきっかけは?

宗藤正典(以下、正典):もともと僕たちには「オリジナルの紙が作りたい」という想いがありました。先ほど言ったように、コトブキ印刷は「デザイン」と「印刷」を軸に事業を行っているのですが、印刷の部分でいうと「表現したい」というこだわりを持っている人や「良くしたい」という課題を持っている人に、最大限の力で応えたいという気持ちが強くあります。しかし紙に関しては、どんな紙が表現したいことや課題解決に適しているか「選ぶ力」は必要ですが、結局は既存の紙という限られた範囲からしか選択できません。もし、紙自体を作ることができたら、もっと面白い表現ができるのではないかと以前から思っていたのです。
 一方で、仕事を通じてお客さまである企業や社会を悩ませている問題も身近に感じるようになりました。中でも大きなものが「廃材」の問題。この廃材をどうするか「資源の循環」という課題と、僕たちの「紙が作りたい」という想いがつなげられないかと考えるようになったのが「めぐる、手漉紙。」プロジェクトのはじまりですね。

利英:僕たち兄弟が地元に戻り、家業であるコトブキ印刷で仕事をするようになった頃、兄弟それぞれが「やりたいことリスト」を作りました。紙がつくりたいという気持ちも、ワークショップのことも、そのリストには書いていましたね。

「めぐる、手漉紙。」プロジェクトについて熱く語る宗藤正典(専務取締役)

紙づくりで、資源の循環+障がい者の自立支援

——このプロジェクトによって、どのような社会課題の解決につながると考えますか?

利英:廃材再利用による資源の循環に加えてもうひとつ。実はこの紙は専門業社が作るのではなく、地域の障がい者施設に製造を依頼して買い取る仕組みにしようとしています。紙すきの事業を行っている障がい者施設にご協力いただき、障がいのある方でも安定して生産できるレシピや手順を一緒に考案していただきました。

正典:障がいのある方々は、例えば就労継続支援B型※の作業所で働いた場合、月額工賃の平均が1万5千円くらいとか。いいところでも3万円くらい。今は親御さんと一緒に暮らしながら仕事をしている方でも、いつかは自立しなければいけない時期も来るし、そのためには暮らせるだけの金額を稼いでおかないといけない。だから、障がいのある方への自立支援にこのプロジェクトをつないでいきたいのです。
 僕たちの取り組みが企業側のリサイクルへの取り組みを支援することになり、障がいのある方の自立支援をすすめ、そして出来上がった製品がお客さまの喜びにつなげていく。その過程で僕たちも企業としてちゃんと利益を残していく。そういう形に持っていけたらと思っています。

※就労継続支援B型:年齢や体力などの面で雇用契約を結んで働くことが困難な方が、軽作業などの就労訓練を行うことができる福祉サービス

——プロジェクトを形にするまでに苦労されたことはありますか?

正典:企業へ声をかけはじめたのは10年前くらい前だったんですが、その頃はあまり良い反応がかえってきませんでした。「エコなのはわかるけど、そこまでやる気はない」と。しかしここ数年でリサイクルへの関心が高まり「SDGs」という言葉も浸透し、企業自体も社会課題への解決に積極的に取り組むようになりました。時代の変化によって僕たちの声に耳を傾けてもらえるようになり、ここ数年でプロジェクトが急に進みだしたと感じます。

 この10年で企業側の廃棄問題への意識が変わっていくと同時に、僕たちも「廃材から印刷紙に生まれ変わらせる」という目的に加えて、障がいのある方にも輪に入っていただくことで「工賃格差問題や自立支援につながるのでは?」という考えも生まれました。10年間で「紙がつくりたい!」という気持ちからさまざまな要素が加わって、時代の変化とともに1つになったという感じですね。

手漉きの様子

表情豊かな紙の背景に、様々なストーリーが見える

——プロジェクトの今後について教えてください

利英:「めぐる、手漉紙。」は最初[名刺をつくる][紙を買う][廃材を紙に変える]からスタートするのですが、お客さまから「はがきやパンフレットにはできないか」「名刺を活版用の厚みではなく、通常程度の厚みでコストを下げてセミオーダーできないか」などのお声もいただくようになり、作り手に無理のない形でできる限りご要望に応えていきたいと考えています。素材についても布や綿から木くずなどまで、細かく粉砕できるものなら大体は紙にできるので、色展開を含めてバリエーションを増やしていきたいですね。

 言葉にするとちょっと野暮ったいのですが「めぐる、手漉紙。」によって生まれた紙は、1枚1枚表情が違い、整っていないところが魅力だと感じています。さらにさまざまな業種に廃材を提供していただき、それぞれ生まれた背景も異なる、多彩な紙を作っていきたいと考えています。

正典:大きな紙にすることでDMなどにも使えるようになります。例えば木工会社さんだったら、当社で出た木くずで紙を作って、名刺やDMなどに使う。そうすればその会社の理念などをお客様に伝えやすくなり、紙面の内容だけでなく、紙自体にもプロモーション効果が期待できると思うのです。

利英:そうやっていろいろな企業と一緒にプロジェクトを進めることで、いろいろな紙が生まれます。それを「めぐる、手漉紙。」の名刺サイトで提供すれば、名刺を作りたい人は、紙自体の好みで選んでもいいし、企業の背景も取材して掲載する予定なのでそこに共感して選んでもらってもいいですね。

「めぐる、手漉紙。」プロジェクトをイメージしたイラスト

——プロジェクトを通じて得られたことは?

利英:人脈と…

正典:希望かな?

利英:小さい印刷会社なので先が怖い業種でもあります。安く大量に印刷できるネットプリントの台頭もそうですが、電子ブックの出現も大きかった。先の見通しがつきにくい業種で、何をしていいのかもわからない。しかし、このプロジェクトを通じてたくさんの人と知り合ったことで、弟の言うように希望が出てきたと感じています。

正典:現状うまくいっているか、利益が出ているかは別の話として、描いているものがちゃんと形にできたら、絶対良くなっていくだろうと感じます。ビジョンを語れるようになったことで社内のスタッフとも共感やつながりが生まれたと思います。

——コトブキ印刷としての今後の展望は?

利英:当社は、お客様が打ち合わせに足を運んでくれることが多いのです。なので、もう少し集まりやすいスタイルにしていけたらいいなと思っています。最初に言ったスクリーン印刷の体験も外でのイベントだけではなく、事前予約でスペースの貸し出しもしているので、オリジナルのグッズ制作に使ってもらっています。これをもう少し開放的にして予約なしでも入れるような空間にしていきたい。うちに制作依頼していただいて作ったノベルティや、地元企業の製品が購入できるショップにしても面白いですね。

正典:[日本一喜びあふれる印刷会社]にしたいと考えています。「めぐる、手漉紙。」や「Ce-no(セーノ)」をはじめ当社の提供するデザインや印刷は、すべてお客様や社会に喜んでいただくためにあります。喜んでいただくことを喜びとし、それを通じて物心両面の幸せを得られる会社でありたいと考えています。

今後について目を輝かせながら話す宗藤兄弟

▶︎「めぐる、手漉紙。」公式HPはこちら

シェアする

この記事のタグ

TEGO-LABに関して

会員になってTEGO-LABの活動に参加しませんか?
社内説明や入会前のご相談はフォームまたはお電話にてお問い合わせください。

084-931-1245

平日9:30-18:00