CSR・SDGs取組み事例

水不足で悩む国や地域に広がる、牡蠣殻を活用した排水再利用処理システム

公開日:2022.10.13

更新日:2024.03.27

時代を先取りする形で、1996年からいち早く環境浄化事業に取り組んできた永和国土環境。主力商品である排水再利用処理装置「アクアメイク」は、産業廃棄物として年間数万トンも捨てられる牡蠣殻を再利用する形で開発。トイレの排水を川魚が住める水質まで浄化する画期的なシステムで、トイレ問題で悩む富士山の世界遺産登録の一助にもなった。その後は海外展開も積極的に行い、水不足で悩む中国の島や、下水道普及率の低いスリランカの世界遺産にも採用。現在は運送ができて移設が簡易な新型「コンテナタイプ」開発により、環境にやさしいだけでなく、災害時にも即対応できる防災トイレとしての活用が注目されている。

話し手:永和国土環境 株式会社 海外事業部長 岡本 修次 さん

企業紹介

永和国土環境株式会社

永和国土環境株式会社

福山市南蔵王に本社を構える永和国土環境株式会社。
1982年に創業し当初は土木の測量を生業としていたが、1996年に環境浄化事業へ転換。
牡蠣殻を使った排水再利用処理装置「アクアメイク」を開発・販売する。
製品そのものが環境に配慮されていることで注目を集め、地元のみならず多数のメディアに取り上げられる。

牡蠣殻を利用した排水再利用処理装置で、下水道地域外も水洗トイレが使用可能

——事業内容と現在の主力商品について教えてください

 岡本修次さん:元々は土木設計や測量を主な業務としており、環境事業に取り組みはじめたのは1996年頃からです。社長が設計の仕事で公園に行くたびに、池が汚れていることが気になり、「原因は何なのか」と興味をもったのがきっかけだと言います。そこから個人的に水質環境の改善について勉強するうちに、広島大学の勉強会にも参加するようになり、そこで牡蠣殻が水の浄化に適していることを知りました。弊社の主力商品である「アクアメイク」は、その牡蠣殻の浄化機能を利用した、排水再利用処理装置として開発されたんです。

——アクアメイクの特徴は?

 下水道がない区域は通常「浄化槽」を設置し、ある程度まで浄化した水を河川に放流します。「アクアメイク」は牡蠣殻と活性炭を使うことで、浄化槽での処理よりさらにきれいな水へ浄化し、トイレの洗浄水として循環再利用することができます。牡蠣殻の複雑な形状は排水の分解を行う微生物が住みやすく、牡蠣殻自体もアルカリ成分が溶けだして酸性の水を中和してくれます。アクアメイクで浄化した水は、匂いもほぼなくなり、川魚が住めるくらいの水質レベルに。自己処理型になっているため、水源や水道がない場所や、処理水が放流できない場合でも、立地を問わず工事ができるのが特徴です。また災害時にライフラインが途絶えて上下水道が使えない場合でも、通常通り水洗トイレを使うことができます。

——製品化までに苦労されたことは?

 実は技術開発よりも、「牡蠣の殻を使って水を透明にする」ということを、信用してもらえなかったのが一番苦労した点です。最初に導入したのは広島県の土師ダム。そこで1年間の水質データを取らせていただき、その浄化能力が認められた結果NETIS(新技術情報提供システム)に登録。国土交通省から認められたことで、各地で採用されるようになりました。現在では国内650件以上、海外を合わせると約700件が導入されています。

 中でも分かりやすい場所は富士山ですね。富士山の世界遺品登録を阻んでいた大きな要因が「トイレ問題」とされており、県や山の保護団体がトイレ改善の取り組む中で、当社の商品を採用していただきました。

海外でも認められてスリランカの世界遺産でも採用

——海外進出の経緯は?

 海外進出を考え始めたのは2000年頃ですね。日本でお付き合いがあった会社が中国に進出されており、一緒にやらないかとお誘いいただいたのをきっかけです。2006年には中国・上海に現地法人を設立し、それを機に私自身も中国に渡りました。

 日本は水が豊富なので上下水道の普及率も高く、みなさんは水に不自由した経験はほとんどないと思います。しかし海外だと水不足で上下水道が整備されていない地域は少なくありません。中国もどんどん新しく変わっていく街がある一方、田舎との貧富の差は激しく、同じ国なのにどうしてこんなに違うのかと衝撃を受けました。そしてそんな田舎の方が、驚くほど水が不足しているんです。大切な資源である水の重要性をあらためて感じ、10年にわたって中国での「アクアメイク」販路拡大に取り組みました。

——スリランカの世界遺産にアクアメイクが導入された時にはニュースになりましたね

 スリランカは小さい国ながら、国内に8ヶ所も世界遺産がある世界遺産大国です。しかし上水道が少しずつ普及していくのに対して、下水道普及率は2.5%(2014年時点)しかなく、河川に放流された未処理排水による水質汚染が課題となっていました。世界遺産ポロンナルワ遺跡でも、既存のトイレ設備から未処理排水が土壌に浸透し続け、地下遺跡に悪影響を与えることが懸念されていたんです。当社ではJICA(国際協力機構)の「中小企業支援プロジェクト」で普及・実証事業に採択され、2018年にポロンナルワ遺跡にアクアメイクを設置しました。

——スリランカ進出のきっかけ、アクアメイク導入に向けてどんな手順を踏みましたか?

 中国で知り合った商社の方に、スリランカ政府とも繋がりがある方を紹介してもらったのがきっかけです。JICAの「中小企業海外展開支援事業」の事業提案に伴ってあらかじめ基礎調査を行い、その際にカウンターパートと繋がりができました。事業提案が採択されたのちに、続いて「案件化調査」「普及・実証事業」の採択を受け、一部の製品を導入するまでに3年かかりました。テロや新型コロナの問題もあって現地になかなか行けなかったことは大変したね。導入以後は遺跡を訪れる外国人観光客に使用料の形でチップをもらい、運営管理(清掃や牡蠣殻の交換など)を賄うかたちになっています。

——海外進出で印象に残っていることは?  

やはり中国の印象が強いですね。一番は言葉の壁が高いこと。行くまでにある程度勉強していきましたが、最初は筆談が中心になりました。漢字で書くとある程度は通じるので。海外での仕事を通じて、その土地独自の仕事のやり方や、人の考え方など、違いを知ることはすごく勉強になったし自分自身の成長に繋がったと思っています。

すぐに使える新型は、災害時のトイレ問題を解決

——SDGsという考え方は意識してらっしゃいますか?

元々「無駄をなくすこと」を重要視しており、どんな物もリサイクルして使っていこうというのが社長の考え方。アクアメイクに使用する牡蠣殻も、年間何万トンも産業廃棄物となっていたものを資源として有効利用する目的もあり、広島大学の教授と研究開発するようになりました。あえてSDGsを意識しているというよりも、もともとの「限りある資源を大切にする」という考え方が、現在のSDGsに繋がっているだと思います。

——今後の目標は?

 通常のアクアメイクは、地下への埋設や配管工事などが必要ですが、それらが不要の「コンテナタイプ」を開発しました。これはタンクと付属機械をコンテナ1つにまとめており、現地でトイレとコンテナの配管を繋げばすぐに水洗トイレが使える仕組みになっています。そのため、災害時の備えとしてはもちろん、工場などの職場改善にも威力を発揮すると考えています。下水道区域内は同一敷地内に1つしか浄化槽をつけることができませんが、大きな工場では事務所と作業所が1km以上離れている場合も少なくありません。こうなると作業所には水洗トイレではなく、簡易トイレしか設置できないことに。コンテナタイプなら、同一敷地内の複数箇所に水洗トイレを設置することができます。

 このように汎用性が広がったことで、今までとは違った分野でも活用できるのではないかと思っています。アクアメイクの普及にさらに力を入れていきたいですね。

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